
文・写真 Toshiki Minamiguchi

そのとき私は兵庫県尼崎市にある某川にいた。
暇を持て余していたのでキャスティングロッドとベイトキャスティングリールと写真のスピナーベイトだけを持って自転車でこの川に来ていた。
べつだん釣りをしたかったわけではない。それにこの川にルアーで釣れるような魚がわんさかいるはずもない。
ただ、ブラックバスが釣れるらしいという噂は耳にしていたので男が一人でルアーを投げていても笑われることはないだろうとは思った。
もちろん、ブラックバスを釣ってやろうとか、そういう意気込みみたいなのはまったく持ち合わせてはいなかった。
ただ、川岸からルアーを投げては、適当なスピードで手元にひき寄せ、また投げてはひき寄せることを繰り返していた。
たんたんと、もくもくと。たまにタバコに火をつけ、たまに空を見上げ、ため息をつくといった感じだ。
そういえば、開高健氏がモンゴルで釣りをしているビデオがあるのだけど、その中で氏が小川で大きな魚を釣り上げたとき、「空が笑いました!」と叫んでいた。釣りの素晴らしさをそのひと言が教えてくれたような気がする。
ゴルフの打ちっぱなしのようにルアーフィッシングの練習みたいなことをしていたわけだけど、運悪くルアーが根がかりしてしまった。
町中を流れるその川にはさまざまなゴミが沈んでいてもおかしくはなかった。
両手でロッドを持ってラインをひっぱってもうんともすんとも言わない。だめだ。と思ったその瞬間、少し動いた。
気のせいか。もう一度、力を入れてみると、少しだけど動いている気がする。なにがひっかかったのかはまったくわからないけれども、たぐり寄せることはできそうだ。
ゆっくりと、慎重にあわてず、私はラインをひっぱった。
川岸から2メートルくらいの所で60センチメートルはあろうかというオオナマズが暴れたとき、私は一人、パニックだった。
空が笑うどころではない。釣り上げた大物を自慢したいのにまわりに誰もいないことを悔やんだ。今考えると、そんな私の姿を見て空が笑っていたのではないだろうか。
Right, there is nothing. #11 2009.7.5
