
文・写真 Toshiki Minamiguchi

大阪でギャラリーをはじめるまえだから、もう、8年くらい昔の話なのだけど。
JR大阪環状線「天王寺」駅のとなりに「寺田町」という駅があって、駅のそばにマクドナルドがあった。
打ち合わせがすんで、そこで休憩していたときのこと。
となりのテーブルに大柄の小学生がひとりで座ってマックフライポテトを口にほうり込んでは「うまい、、」、口にほうり込んでは「うまい、、」と、まるで感想を言うようにひとり言をしゃべっていた。
ま、そんなこと、どうでもよいことなのだけど、よく憶えている。
それにしても、たべっぷりが、よかった。ほんとうにしあわせそうにたべていたので、僕は感化されてしまったようで、それまでポテトをあまり好きではなかったのにその後ポテトをおいしくたべられるようになった。
ある意味すごいデモンストレーションだったなあと思う。
よくたべる、ということでは、もうひとつおそるべし、よくたべる話がある。
大阪でギャラリーをはじめてからだから、もう、7年くらいまえになるだろうか。
たまに東京に来ることがあったのだけど、そんなに経費をかけられないので大阪東京間はもっぱら深夜高速バスを利用していた。
東京から大阪へ帰るバスは、そのとき、わりあい空いていて、四列シートだったのだけど僕のとなりは無人だった。通路をはさんで右がわの二席も男性ひとりで、陣取っていた。陣取っていたという表現がふさわしいくらい、その男性は体格がよかった。そのうえ、ポテトをほおばっていた。年の頃は40くらいだったから、あの「寺田町」の少年ではないことはまちがいない。
ポテトなんだ。と、思いながら、こちらは緑茶を口にし、目を閉じて翌朝まで我慢の体勢にはいった。しかし、なぜか右がわが、つまりはその男性が気になってしまい、べつに見たいわけではないのだけど彼を見てしまった。おかげで、おそろしい光景を、朝まで見つづけることになった。
朝まで、彼は、ずっと、たべつづけたのだ。
ポテトのあとはべんとうのようなものを。お茶も大きなペットボトルで。消灯後は、窓にかかる厚めのカーテンの向こうがわへ頭をつっこみ、流れるハイウェイの光をながめながら(想像だけど)たべつづけていた。
気がつくと、僕は眠ってしまっていたのだけど、はっとして右がわに目をやると、彼がお茶を飲む光景が、ほの暗い車内でもしっかりと認識できた。
そのあとも、想像にたやすい。
朝まで、彼は、ずっと、たべつづけていた。
何度か眠りに落ちては、目が覚め、そのたび右がわを見てしまうのだけど、いつもなにかをたべている男が目に入る。それは、もう、当たり前の光景になっていた。
そしてバスは早朝、無事に大阪に到着。僕は、いちもくさんにターミナルのそばのトイレに駆け込んだ。
大阪に着いた安堵感とともに目を閉じていたら、となりに誰かが来た気配がした。
右がわを振り向くと、至近距離で、同乗していたあのポテトの男性がいた。はっとしたのだけど、さらに驚いたことに、彼は、左手にサンドウィッチを持ち、ほおをふくらませながら口をもぐもぐさせて用を足していたのだった。
Right, there is nothing. #26 2012.3.29
